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「おかあさんといっしょ」 幼児を惹きつけるためのワザとヒミツ

ママと子どもが日々、お世話になっている「おかあさんといっしょ」(NHK Eテレ)。今回は、長年番組制作に携わってきたNHKエデュケーショナル こども幼児部 統括部長・古屋光昭さんと、シニアプロデューサー・平岡ジュンコさん、NHK制作局青少年・教育番組部 チーフプロデューサー・山田淳さんのインタビューを前後編に分けてお届けします。


左から、上原りさお姉さん、小野あつこお姉さん、花田ゆういちろうお兄さん、小林よしひさお兄さん


前編では、毎日観ていても気付かない、子どもを惹き付けるためのワザとヒミツに迫ります! つい毎日見てしまう、その理由には仕掛けがあったんです。それだけでなく、番組の歴史から、一般の子どもが参加する収録の様子まで、たっぷりとお話を聞きました。

■あくまで主体は母親だった! 「おかあさんといっしょ」誕生のヒミツ
古屋「『おかあさんといっしょ』の放送開始は1959年10月。よく日本初の幼児番組かと聞かれますが、そうではありません。初めは週に1回の放送で、情操や情緒を意識した“幼児のためのミュージカル・バラエティ”ではありましたが、『きょうの料理』などと同じく母親向けの実用番組という位置づけでした。

その後、週に5日の帯番組になり、ラジオ『うたのおばさん』のテレビ版として放送されていた『うたのえほん』と1966年に統合されたことで、歌・体操・人形劇という形になりました。ちなみに『うたのおばさん』の流れもあり、初めはうたのおねえさんしかいなくて、うたのおにいさんは1971年に初めて登場したんですよ」


『いないいないばあ』(0〜2歳)、『おかあさんといっしょ』(2〜4歳)、『みいつけた!』(4〜6歳)は、いろいろなジャンルの要素が詰まっている“総合型”。それに対して『にほんごであそぼ』など、ひとつのジャンルに特化した番組は“専門店”と位置づけられている


『おかあさんといっしょ』や『にほんごであそぼ』などは在宅向け、『ノージーのひらめき工房』『ピタゴラスイッチ』などは幼稚園保育所向けと分かれており、実は幼稚園保育所向けの番組のほうが1956年から放送が始まっており、歴史は古いのだとか。

■58年も番組が続いた理由は、止めなかったから!?
古屋「70年代になると民放でも幼児番組がものすごく増えましたが、80年代で軒並み姿を消していきました。でも、NHKは止めなかった。90年に幼児番組を“幼児ゾーン”としてまとめて放送することにしたのがよかったのだと思います。そして、うたのおにいさん、おねえさんの速水けんたろう&茂森あゆみコンビがとても人気だったこと、さらに99年の『だんご3兄弟』のヒットもあり、そのあたりから、視聴者の感覚もだいぶ変わってきましたね。

それまではテレビ番組に限らず、子どものもの=子どもだまし=粗悪品みたいに言われることもありましたが、80年代以降で大人文化と子ども文化の境目が薄れ始め、大人も子どものものを抵抗なく受け入れるようになります。逆に大人のものよりクオリティが高かったり、丁寧に作られていたりする。子どもの方が余分な情報や付加価値なしに見るので、子どもをよい意味で“だます”方が難しいんです」


左から、松野ちかさん(トライ!トライ!トライ!のおねえさん)、速水けんたろうさん、茂森あゆみさん



■2歳児を徹底研究&セグメント形式を採用 迷いの70年代からの脱却!
古屋「話は戻りますが、70年代は迷いの10年だったようです。幼稚園に行く子が増えたことで、家には小さな子どもしかいなくなり、4歳〜6歳がターゲットだった『おかあさんといっしょ』と社会状況がズレてきてしまったんですよね。そんな中、1979年に『2歳児テレビ番組研究会(2歳研)』が発足しました。

実はこれ、アメリカの幼児番組『セサミストリート』の影響を大きく受けているんです。日本では英語番組という認識が強いけれど、もともとは子ども番組として専門家が対象年齢や子どもの能力を研究して作り込んでいるんです。2歳研では、『セサミ』と同じように発達心理学・教育心理学・教育工学などの専門家たちを含めて、2歳児を徹底的に研究したそうです」

――具体的には番組にどのように生かされたのですか?
古屋「まず、ひとつの番組が複数のコーナーに分かれている「セグメント形式」を取り入れました。2歳研によって幼児が集中して見ていられる時間は2〜3分だとわかったので、それをひとつのコーナーの目処にすることにしたんです。また、幼児は数ヶ月の差で発達段階が全然違うのですが、対象年齢が異なるコーナーを作れば、どこかのコーナーが楽しめます。セグメントのメリットは、ダメだったらそのコーナーをリニューアルすればいいっていう取捨選択ができることにもあります。素材の反復再利用もできますしね」

――たしかに再利用はありますね! 映像のサイドにラインが入っている(アナログ画面サイズ)っていう…。

平岡「名作アニメや良い作り手が手がけた素晴らしい作品など、これは作り直せないなっていうのがあるんです。だから“両側がありませんけど、すみません!”って(笑)」

古屋「ADさんが “この曲、小さい頃に観ていました!”とか言ってます。20年使ってるものもありますからね。でも、子どもにとってはそんな曲も初めて聞く”新曲“ですから」

――親の立場からすると、懐かしい曲が流れると嬉しくなります。

山田「そうですよね! あとは、激しいコーナーの後には静かなコーナー、実写の後にはアニメを放送するなど、内容の強弱にも気をつけています。せっかくのセグメントなのに、同じような内容が続いては意味がないですからね」

■一分アニメの背景は白!情報量を最小限にする工夫
古屋「歌の後は人形劇…というように、コーナーは月曜日〜金曜日で基本的に同じ順にしています。そのほうが子どもたちも安心できるし、毎日の視聴習慣ということで変えないようにしているんです。

番組を通して言えるのは、色や音などで情報量をものすごく整理しているということ。どうすれば画面に目が行くかとか、物語に集中できるかとか、子どもの情報処理能力を考えて作っています。

たとえば『ともだち8にん』(一分アニメ)は、バックが白。普通のアニメは背景にもたくさん絵が描き込んであるけど、それでは情報量が多すぎる。キャラクターを見てほしいので、あえてお話で扱うものだけを描くようにしています。



一分アニメは『こんなこいるかな』(86年)と同様に、幼児の実生活での事例をたくさん拾って、そのネタをもとにストーリーを組み立てていったんです。3歳は世界の真ん中に自分がいて、人の立場で考えるってことはできない時期。一緒にいても、ひとり遊びを個々にしていることが多く、協力することが難しいのです。そんな子どもたちを観て、発想して、題材にしています」

■歯磨きは上手にできなくていい! 決してお手本ではない生活習慣ロケ
古屋「『はみがきじょうずかな』や『パジャマでおじゃま』などの生活習慣ロケも、2歳研の頃に始まりました。あのコーナーは、会話もなく、ただ歯を磨くだけという映像を、音楽(スキャット)に乗せることでテレビのコーナーに仕立てたことがすごいと思います」

山田「歯磨きの様子をただ撮影しただけでは退屈なコーナーになってしまう。音楽の尺に合わせてテンポよく見せる演出が、一見何気なく見えますが発明ですね」

古屋「コーナーの目的は、自分と同じような子どもがやっているのを見てモチベーションを上げてもらうこと。うまく出来た姿を見せるのではなくて、がんばっているところを見せているんです。だから、テレビでお手本を紹介するコーナーではないんです。」

――“みんながやってるから、僕もやる!”という感覚は、幼稚園や保育園での友達関係と一緒ですね。

古屋「そうですね。一度はコーナーをやめたんですが、 “子どもが歯を磨かなくなったので、またやってください”という声があって復活しました」

■親のほうが必死!? 子どもたちの収録の様子とは?

「視聴者の方は、うたのおにいさん・おねえさんに対して、学校の先生みたいな感じを抱いているのかもしれないですよね。子どもの担任になった新任の先生が、だんだんと成長していく。それをつぶさに見ながら、なにか連帯感が生まれたり、同じような思いや苦労を共有したりする」(古屋)



古屋「『おかあさんといっしょ』は、一般のお子さんが出ているということが一番の特色かもしれません。子どもが番組に出ているのは、テレビを観ている子どもに親近感をもってもらうためなんです。自分と同じくらいの年代の子どもがやっていることに興味を示す年齢なので、“おもしろそう”とか“やってみたいな”という感情を持ってもらうことを目的にしています」

――体操に参加せず、端のほうに立っているだけの子もいますよね。親としては“いろいろな子がいてもいいんだ”と安心します。

古屋「参加する子どもは、ありのままの姿でいればいいと思っています。親御さんはせっかくテレビに映るのにって思うけど、怒るのは逆効果なんです。」

山田「『おかあさんといっしょ』に限らず、収録中にある子どもがずっと無表情のことは良くあります。でも終わった後に“どうだった?”って聞くと、みんな“楽しかった”って答えるんです」

古屋「子どもはどこにいても、本当は楽しんでるんだと思うんですよね。収録に来たけれどもお母さんから離れられずにヒザの上で観ているのも楽しいし、体操を後ろのほうで観ている子はそれが心地よかったりする。それはそれでいいじゃないかって思うけどのですが、親御さんにとってはなかなか難しいですよね。

どうすれば収録に参加した子どもの集中力が途切れないか、どうやって一連の収録を楽しませるか、スムーズに事を運ぶかっていうのは、いろんな工夫やノウハウを組み合わせてやっています。それはうたのおにいさん・おねえさんの中にも引き継がれているし、“子ども係”という子どものお世話をする人たちや、われわれ制作の中にも代々受け継がれてきているんです。

集合場所から移動して、収録が終わってまた同じところに戻ってくるまでに約1時間。それを1日3回やることもあって、本当に驚異的だと言われます。幼稚園単位ではなく、初めて会った知らないもの同士ですからね。以前イタリアの制作会社の人たちが来た時に、「こんなに聞き分けが良くて、この子たちは子役じゃないの!?イタリアじゃありえない!!」って、すごく驚いていましたよ」

後編では3月末をもって卒業しただいすけおにいさんのお話も登場…!

(取材・文/nakamura omame)


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